このほど、泉南市信達岡中にある林昌寺の本堂の屋根が葺き替え工事を終えた。時折の修復工事はあったものの、大規模な葺き替え工事は現在の本堂の建立以来300年で初めての事だそうだ。11月には落慶法要が行われる。

re  IMG_4748

  葺き替えられた本堂の瓦屋根。青空に映えて銀灰色に美しく輝いている。本堂全体を覆っていた工事用シートは取り払われたが、今はまだ赤いコーンに囲まれている。しかし、境内は拝観自由なので、ぜひ訪れていただきたい。

  さて、この古刹を訪ねた際、見逃していただきたくないのが、本堂の東側にある刈込と石組の庭だ。愛宕山の頂上に向かう斜面を利用して作庭され、その大胆な造形が強い存在感を放つ美しい庭。天平からと伝わる長い歴史を誇るこの古刹で変わらぬ自然の緑や古趣豊かな瓦屋根の鐘楼に囲まれてはいるが、明らかにそれとは異質な、現代にも通ずる美的センスをもった人の手になる人工の造形美がそこにある。

re s-IMG_4752

 庭の上部や左側はツツジの刈込、中央は波のようなサツキの大刈込、その間に三尊石を中心に配置された石組がアクセントになり、この庭に凜とした佇まいを与えている。現代的で大胆でありながらも、意匠の奇抜さで観る者を驚かせるでもなく、決してまわりの景観から乖離してしまわない穏やかな庭。日本庭園についての知識がなくとも単純に魅了される。

s-rere IMG_4753

 これが、昭和を代表する作庭家・重森三玲作の「法林の庭」だ。全国に数々の名庭を残しているが、代表作といえば、京都・東福寺の「本坊庭園」だろう。この「本坊庭園」と同じく三玲作の岸和田城「八陣の庭」はともに国の名勝。昭和に作庭された、まださほど年数を経ていない庭が揃って名勝に指定されるのは異例のことで、当時は大きな話題になったそうだ。

 しかし、聞けば、この「法林の庭」はオリジナルのままではないという。最近、幸運にも三玲のお孫さんであり重森三玲庭園美術館館長の重森三明氏に色々ご教示いただく機会を得、その後、林昌寺のご住職にもお話をうかがう事ができた。最初は杉苔の築山に石組の庭であったのだが、何度敷き直しても強い西陽で苔が枯れてしまうので、三玲の没後、お弟子さんであった岩田半之丞氏によってサツキの刈込に替えられたのだそうだ。

 庭の前の小石が敷かれている平地部分も、以前は白砂で砂紋が描かれていたという。「これがその名残です」と、ご住職が、前面の刈込と本堂工事後敷き替えられた小石との間に細く残っている白砂の部分を教えてくださった(下の写真)。 

s-IMG_4866

 オリジナルが残っていないのを嘆く声もあるようだが、サツキの刈込もよく枯山水に使われている植栽、三玲も使っている。素人目には違和感はなく、これもよかったのではないかと思える。花を意図した庭ではないそうだが、全体がサツキで真っ赤になるのではない。4月下旬からまず、山号「躑躅山」が示すようにもともとヤマツツジの名所だったこの寺にふさわしく、周囲のツツジが薄紅色に色づき、少し遅れて5月中旬から下旬にかけて中央のサツキが花開き大刈込が赤く染まっていく。少しづつ変化し季節の移り変わりを感じられる風情ある庭になっている。 

 

s-林昌寺サツキ2

 

 近年、重森三玲の作品は、多方面で見直され、メディアでも特集が組まれたりCMに使われたりと注目を集めている。東福寺本坊庭園は、モダンでフォトジェニックな造形がアート系の学生やアマチュアカメラマンにも人気なのか、大きなカメラを手にした若いカップルを多くみかけた。 同じく東福寺の光明院や重森三玲庭園美術館*も数多くの若い人や外国人が訪れている。ひっそりと竹林の奥に建つ林昌寺は、そのアクセスの不便さからか、TVで取り上げられても、おおよそ静かな、三明氏の著書にもあるように「隠れた名所」のままのようだ。

 大阪府内には、私の知る限り、公開されている三玲の庭は三ヵ所。大阪城・豊國神社の「秀石庭」**、岸和田城の「八陣の庭」、そして林昌寺の「法林の庭」だ。熱心な三玲ファンの中には、遠方から来阪する機会を利用して、この三ヵ所を超特急で回って関空から帰路につく方や、高野山にある三玲の庭まで足をのばす方もあるようだ。

 泉南市内には、往時は計4つの三玲の庭があったそうだが、今は林昌寺だけになってしまっている。人の流れは町に活気をもたらす。静かな名所であり続けてほしい反面、三玲人気が続く中、それらが残っていて公開できていたら…と詮無い思いが巡る。

 ともあれ、これから秋が深まれば、「法林の庭」は、緑の刈込に傍らの赤く色づく木々が彩りを添え、雪が降ればまた水墨画のように美しい。季節ごとの良さを味わいに訪れてみてはいかがだろうか。私の浅学・拙文でも、「行ってみようかな」と思うきっかけになればと願っている。 

(文・写真:T.A.)

*京都にある三玲の旧邸が庭園美術館として公開されている。予約制。
**豊國神社に事前確認要。外側からなら鑑賞可能。

参考)
1.重森三明 (2010)『重森三玲Ⅱ‐自然の石に永遠の生命と美を贈る』(シリーズ 京の庭の巨匠たち 5)京都通信社。
2.水野克比古(2015)『重森三玲の庭園』光村推古書院。

s-IMG_4804

苔むした石段を上がれば、街並みの向こうには大阪湾が。晴れた日には淡路島も見渡せる絶景だ。

re  IMG_4803

愛嬌たっぷりの獅子瓦はmust-see.

s-IMG_4796

 山門外の日蔭には豊かな苔

林昌寺へのアクセス

 

以前のコラムはコチラ