10月からスタートしたTBS系ドラマ『陸王(りくおう)』が面白い。銀行を舞台にした「半沢直樹」シリーズで人気の作家・池井戸潤(いけいど・じゅん)氏原作の小説のドラマ化で、ある足袋製造会社がランニングシューズの開発に挑戦し、その奮闘を描いた企業再生の物語で、役所広司さんが主役の社長を演じている。

   足袋製造会社の「こはぜ屋」は、創業100年の歴史をもつ埼玉県の老舗だが、近年は足袋のニーズも少なく、業績が低迷し資金繰りに四苦八苦している状態。そんなある日、これまで培ってきた足袋製造の技術を生かして、裸足感覚を取り入れたランニングシューズの開発を思いつき、プロジェクトチームを立ち上げる。資金難や人材不足、大手ライバル会社からの横やりなど、次々に新たな困難に直面するが、様々な人々の協力や助力を受けて試行錯誤を続けながら、会社が一丸となってシューズの開発に邁進していく、というストーリー。実は、この物語は埼玉県行田市にある1929(昭和4)年創業の「きねや足袋株式会社」という実在の会社がモデルとなっているそうだ。

 100年前というと、江戸時代から織物生産が営まれてきた泉州地域では、繊維産業の最盛期を迎えていた時代である。特に泉南地域では明治から大正初期に「紋羽」の製造が盛んで、その生産の中心は樽井村であった。「紋羽」とは、厚手の綿織布の表面を起毛させた商品で、ふっくらとした肌触りが心地よく温かいため、当初は庶民の防寒肌着として、そして後に軍服の生地として採用されたことによって軍需市場が開けていった。
   その後、その地位は毛織物やメリヤスに取って代わられ、一旦その需要は低迷したが、樽井村を中心とする紋羽業者は、大正末期から昭和初期にかけて、紋羽の生地の耐久性の向上に取り組んだ結果、足袋の裏地としての利用に活路を見出し、再び商圏を拡大することに成功した。その最盛期を誇った時期に、樽井村から紋羽を足袋裏の生地として出荷していた先が、埼玉県行田市なのである。

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   戦後になると、繊維産業全体が化学繊維や合繊へと比重が移り、天然繊維の業績が大幅に低下したことは皆様ご存知のとおりである。そして現在、紋羽の足袋は国産ナイロンの普及と足袋の需要減により、現存するものはわずかで、消滅の危機に瀕する郷土の歴史遺産になりつつある。

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   12月を迎えて「こはぜ屋」の奮闘もクライマックスを迎える。郷土の誇りが遺産ではなく資産となるよう、樽井村の紋羽業者へ思いを馳せながらテレビの前で「こはぜ屋」へエールを送りたい。

文責:KH

【参考文献】
松田秀逸(2010)『樽井の紋羽-消滅危機にある郷土の歴史遺産ものがたり』

 

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