初夏の泉南を彩る長慶寺のアジサイが今年も色とりどりの綺麗な花を咲かせた。市内外から多くの参拝者や観光客が思いおもいに境内を散策し、私たち観光協会もウォーキングイベント等を通じて、参加された皆様から最高の花笑みを頂戴することができた。

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 アジサイは明るい日差しのもとで楽しむのももちろん良いが、雨に洗われた後には、より一層鮮やかな色彩で見る者を楽しませてくれる。梅雨と言うと雨露を載せたアジサイの葉っぱにカタツムリが佇む光景をイメージされる方も多いのではないだろうか。

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 さて今月はカタツムリと観光についての話をしてみたい。カタツムリは蝸牛(かぎゅう)とも言い、全国にデンデンムシ、デデムシ、ツブリなど様々な呼び名が存在する。明治から昭和にかけて活躍し、徹底した現場主義に基づいてわが国の民俗学の礎を築いた柳田國男は、同じカタツムリでも地域によって呼び名に違いがあり、さらに同じ呼び名を使用するエリアを分析することで、東北地方と九州地方、さらに関東地方と四国、さらには中部、中国地方にも共通する呼び名が存在し、一方で近畿地方には、他とは異なる呼び名が存在していることを確認した。これらから、長らく政治文化の中心地であった近畿を中心として、中心から離れるに従って古い時代の呼び名が同心円状に分布していることを明らかにしたのである。この法則は「方言周圏論」と名付けられ、昭和5年『蝸牛考』において発表された。

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 以後、「方言周圏論」は方言を考えるうえで欠かすことのできないものとなったのであるが、私たちの身近にも「方言周圏論」にあてはめて考えると面白い場面がいくつもある。例えば、泉州地域から紀北地域にかけては、雨上がりの庭を見て、「雨が(フッチャール)、(フッタール)、(フットル)」などといった言い方をするが、岸和田市から海南市あたりまでに(フッチャール)が存在し、その周辺には(フッタール)や(フットル)が分布する。この他にも泉南地域には独特の呼び名や言い回しが数多くみられることからすると、地域の文化や経済の中心があった、そのレガシーとしての「泉南方言=泉南弁」が確固たる存在感を誇っているといって良い。泉南地域に独特の言い方が残ることは、近世岸和田藩の存在が大きいものと推測されるが、岩出市をはじめとする紀北地方との共通点が多く指摘されることから、さらに古く根來衆が活躍した時代の名残が考えられるという。

 日頃、観光に携わり、各地のお客様と接していると、言葉の違いに驚かれることもある。ときにキツイ、コワイなどといったマイナスイメージで語られることの多い、泉南弁であるが、その成立にはれっきとした歴史的背景があり、私たちが誇るべき文化遺産であると言えば、言い過ぎか。しかし観光の根幹にあるのは人と人とのつながり、ふれあいにあるとすれば、私たちの飾らないおもてなしの言葉こそ、最高の観光コンテンツではないか。ともすれば本来の泉南弁は失われつつある昨今、「ほんまもんの」泉南弁でのおもてなしを心がけたいものだ。

(文と写真 H.J.)

【参考文献】

大阪のことば地図 岸江信介ほか(和泉書院)2009

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